東京高等裁判所 昭和29年(う)1552号 判決
被告人 飯村一人
〔抄 録〕
右弁護人の控訴の趣意第一点について。
論旨は、本件犯行当時被告人が心神耗弱の状態に在つたことは鑑定人森玄俊の鑑定書に徴しこれを認めるに難くないところであるにかかわらず、原判決がこれを認めなかつたのは失当であつて破棄を免れない、というのであるが、所論援用の右鑑定人森玄俊の鑑定の結果によるも、被告人の本件犯行当日における酩酊の状態はその飲用せる酒精の量の増加と時間の推移に正比例しており、その一連の行動の追想においても時に部分的健忘はあるにしても、云われれば想い出すことが多く、本件犯行時並びにその後の追想は殆んど確実であり、意識の著明な障害は認められず、幻覚妄想等の異常症の発現もなく、その体質に病的事項なきこと等を考察すれば本件犯行当日の酩酊は普通酩酊の状態に概ね一致するものであり、被告人が常に飲酒に際して発呈するがごとき酒癖は焼酎五合位清酒一合位を飲用せる四時間位の後に著明となり(午後九時半頃パチンコ屋における行動等)中間期の状態において本件犯行に至つたものと思料せられしたがつて本件犯行当時における被告人はその受容した酒精の侵害作用を蒙り、普通酩酊(生理的酩酊)の中間期に相当する状態に陥り軽度の精神機能障害の状況にあつたものと認められる、というに過ぎず、未だ必ずしも心神耗弱の状態に在つたものとは断定し難く、これと原判決挙示の証人加藤賢、同大橋タケ、同大山シゲ、同細野蚊郎及び同田中トミ並びに被告人の原審公判廷における供述及び証人田中七郎尋問調書を綜合すれば原判示の認定は相当であつて所論は到底採用し難い。論旨は理由がない。